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後編「羅刹女と惨酷メカ」1

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 燃えさかっていくコカ畑に照らし出された夜。病的な快楽と力、幻影と錯乱をもたらす麻薬の毒煙がもうもうと立ち込める。
 こんな場所で対峙しているのは人間ではなく、機械のロボットだからだろう。人間はもはや主役ではなく、付属物か構成部品か。操縦者本人たちの事情はともあれ、二体の巨人たちは戦時中から何十年も続く機械同士の殺し合いの続きと延長に立っている。
 頭のない骸骨のような巨人がゆっくりと立ち上がっていく。
 カプリコンの人工知能AIはコックピットに備えつけた特殊なバイオメトリックス・インタフェース(BI)で、新しいパイロットを走査する。視界を写すモニター画面には「オート・パイロット」の表示と、「頭部インタフェースを着用してください」の指示。
 パトラはシートで、幅のあるベルト数本と、後方から引っ張り出す大型ヘルメットを身につける。すると、表示と同時に中性的な機械音声が聞こえた。
 
「あれは敵ですか?」
 
 透き通ったバイザーの向こう、薄暗い中に浮かび上がるビジョン。矢印表示が、対峙している緑色のマッチョな巨人を示す。
 イエスと答える前に、「了解しました」の音声が返事をする。どうやら脳波でも読み取ったものらしい。
 
「オート・パイロットで戦闘を継続します。パイロットは生体センサーのデータとして、判断にフィードバックされます」
 
 このときの断定的な操縦モード選択には「この新しい臨時のパイロットが、元のパイロットより有能ということは絶対に有り得ない」という人工知能による判断があったらしい(あとで初搭乗時について説明を求めたときの回答で知って苦笑した)。
 パトラにも、特に異論はなかった。作業用の小型ロボットウォーカーならまだしも、こんな大型の軍用ウォーカーの操縦なんて初めてだ。ましてや手動マニュアル操作での戦闘など、無理に決まっている。
 まだコンピュータに任せた方が賢い。それに、パイロットが「フィードバックされる」というなら、おそらく上手くやってくれるだろう。信じて祈るしかない。
 もし自分で操縦したら、一分で殺される自信がある。シートで裸の膝が竦んで、身体が恐怖と緊張に震えてくる。「逃げたい」、そんな言葉が頭をよぎった。自分で操縦するのでないとしても、コックピットにいれば同じことで、一蓮托生なのだから。
 
「中止または離脱しますか?」
 
「戦って。全部任せる。あいつらやっつけて、お願い」
 
 そして、再度の戦闘へと動き出す。
 パトラは自分がこのロボットに乗っていて、さっきまでと動き方が違うことに気がついた。モニターに映されている外部映像の動きから察したのだが、あまり胴体を派手に揺らしたり振ったりせず、コックピットへの過重負担を減らしている。
 女性パイロットはカプリコンのBIシステムの読み取りにとっては有利だが、反面でG負荷への耐性では男に劣る(メリット・デメリットのジレンマだった)。人間を乗せている場合でも特に、慎重な動作を要するとカプリコンの人工知能は判断していた。
 
(この子、やっぱり賢い?)
 
 やがて、殴り合いが始まる。
 パトラはせめて向かってくる脅威に「目を閉じない」ようにした。どうやらシステムが彼女の脳波だけでなく、視線もトレースして判断材料にしているようなので。せめてできる協力と言えば、それくらいだった。

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