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☆(追伸:同日3/13の朝)☆
過去に書いた携帯小説を30記事ほどまとめて連続投稿したところ、(謎の制限またはバグで?ユーザー編集ページからの)新規記事の投稿ができなくなりました(深夜のこと、翌朝でも解除されず?)。
なお、作中の「空白行」は、「改行二回」では読者閲覧する記事ページに反映されない(ブログのシステム上の仕様が変?)。それで一連の記事投稿では「改行+スペースキー+改行」で、(読者が見る)記事中に空白行を無理やりに反映・表現しています。
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9
「そうだ! 大至急で頼む!」
大型アンテナのある通信施設から、近隣の武装ゲリラ拠点に応援要請がなされる。
そのとき、すぐ近くで機銃掃射の銃声と撃ち合いの喧噪が聞こえた。窓の外を見れば、警備用の小型RW・カンガルーが歩哨の兵士たちに鉄火の雨を浴びせかけている。
たとえ五メートルそこそこではあっても、人間が持ち運べる銃火器よりは強力なものを搭載している。装弾数や連射性能も同様で、機関銃を装備した装甲車に人間ではなかなか太刀打ち出来ないのと同じことだ。
せめてロケットバズーカでもあればどうにかなったかもしれないけれども、武器庫に取りにいかない限り、すぐには用意出来ない。通信施設はゲリラ村でも安全な場所にあるから、それほど厳重には警戒していない。しかもロボットウォーカーの多くは、今回の「巨人」騒動での対応に駆り出されている。
あれよあれよという間に、「動く者全て皆殺しにする」勢いであった。おそらくコンピュータのオールキル設定を使い、生体反応探知で「全て撃つ」やり方だろう。通常ならば味方エリアでは危なくて使えないし、専門の知識がなければ設定変更すらできない。
ややあって、銃声が止み、一拍の静寂の後で壁が外から叩き壊される。体当たりしているのだ。崩れた石と土の壁が土煙をあげる。
霞んだ視界を手で拭いながら頭を上げると、カンガルーの露天コックピットから、人影が立ち上がっている。手にアサルトライフルを構えている。
(あの女!)
州軍閥のマリア・リーだった!
銃で応戦しようとしても間に合わず。瞬く間にその場の四名は射殺されていた。通信設備を破壊しないために、内部制圧には大口径の機関銃を使うのを流石に避けたらしい。
「生体反応ゼロ!」
副操縦席からサユキ・サトーが叫び知らせると、マリア・リーは飛び降りて、通信設備のコンソールに飛びついた。
10
三十分も経っていなかっただろう。
「あれは!」
必要なSOS通信を終えて、喧噪のゲリラ村の片隅にいたマリア・リーは、遠くに現れた緑色の巨人の姿に顔色を変えた。
「あれ、凄い強そうだけど!」
「うん、戦時中で最強クラス。修復品だったら現役の当時より弱いかもだけど」
どうやら近隣のゲリラ拠点で修復したものらしい。兵士たちの動きや聞こえてくる叫びから判断すると、これはゲリラ側の増援のようだった。
幸いなのは、その一機だけが先行したのか、あるいは単独投入なのか、他にたいした機影があるようには見えない。少なくとも現時点では。
その緑色の巨人は背丈がカプリコンと同程度あり、しかもずっとマッチョだった。
「こうなったら、私らで暴れて時間稼ぐしかないよ! 州の味方が来るまで、まだ時間がかかるもの! 出来るだけ長引かせなくちゃ!」
11
もうゲリラ村はとっくに統制を失って混乱状態だった。重要な指揮官の上位者たちが、通信施設の近くで、マリア・リーとサユキ・サトーの攻撃の巻き添えで殺されていた。
居住エリアの長屋の間の通路には、押し込められていた女たちが外に出て、盛んにおしゃべりを交わしている。特に深い目的があるわけでもなく、物見高さとコミュニケーション欲求や群集心理のなせる業か。それに心細さや不安も大きな理由だったことだろう。
「様子見てくる!」
パトリシアもまた、衝動に駆られて表に駆け出した一人だった。
もう何もかも気にせず、服もろくに着ないで上着だけを羽織って靴を履いて。無気力と怠惰と突発的な欲求だったが、どうせ周囲は女たちが大部分で、今さらゲリラの男どもに見られてもどうというものでもない。この二カ月で全ての尊厳も恥じらいも壊れ果て、形骸化した習慣で服を着て、食事や睡眠をとっていたに過ぎない。
遠くに見える赤い光は、まさに呪われた麻薬畑が燃えているのだろう。最後の審判の救済のようにウットリとしてしまう。麻薬の燃える煙が空気に遠く混じって、その影響で脳髄が痺れたように恍惚となってしまう。
彼女はただでさえ自暴自棄になっていたところに、最後のたがが外れてしまった。目の前にある破滅の光景が、なんだか救いの光のように思えてきて、「もっと近付きたい」という得体の知れない衝動が突き上げる。
(あの白いロボット)
さながら死神の巨人のような「救い主」。
たとえ破壊という形であったとしても、それが天の救いの使者のように思われて。意識するまでもなく、勝手にその方向に足が動いていたのだった。
やがて間近まできたとき、チラと目が合ったような気がした。
(え?)
次の瞬間、こちらに向けて熱線レーザーが乱射される。
パトリシアはとっさに最後の生存本能で、身体をすくませて、華奢な腕で我が身をかばった。しかし全く無事だった。狙いは彼女ではなかったからだ。周囲の武器を持った無法者の男たちだけが消し炭になり、女や少年兵たちは無事だったようだ。
(この子、もしかしてすごく賢い? ちゃんと「識別」して攻撃してるの?)
野良ウォーカーの人工知能は、過去のパイロットの行動パターンを模倣しているというふうに聞く。学習して盟友の心を覚えているというのならば、彼らのような機械人形にも「心」があると言えるのかもしれない。
だから、白い細身のカプリコンが新手の緑色の巨人と殴り合いを始めたときには、さながら味方であるかのように想い入れた。
そして、打ち倒されたとき。
まるで自分たちを守ろうとした英雄や恋人に対するような感情で、駆け寄らずにはいられなかったのだ。
(私たちを助けようとしてくれたんだもの)
横倒しになり、首にめり込んだ頭部の前に進み出て、どうにか感謝の気持ちを伝えたかった。たとえそれが勝手な思い込みだったとしても。荒野を一人で孤独に彷徨い続けて、最後に、たとえ成り行きでもここで自分たちのために戦ってくれた。どのみち救いがないのなら、一緒に死んでも良いと思いながら。
頬を涙が伝っている。
無機物のカメラの瞳に笑いかける。
あの忌まわしいゲリラのロボットが近寄ってくるのがわかる。もうじき殺されるのだろうが、それでも構わなかった。
「一緒に死んであげる。ありがとう」
12
カプリコンの生体バイオセンサーとコンピュータ演算、人工知能に宿る「心」は、目の前の名も知らぬ娘を「味方」と判断した。
そして頭部のコックピット・キャノピーが開いていく。ずっと空っぽだった座席シートに、この新しい盟友を受け入れるために。
(※後編に続く)
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