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コロッセオゲームの内容自体はヤバイ見世物ビジネスではあるものの、裏で色々と(良心的に?)配慮されていることも事業が成り立っているもう一つの理由なのだろう。「救済企画」の一面があるためにカンパの意味で金を出しているような客も多いようだ。
それでたまに「サービスイベント」があったりする。
一例は「サーシャとリングで戦いたい」企画。希望者が殺到して、最終的に高額落札者と抽選当選者で半分ずつの三十人を、二日がかりで相手にした。一人一人は大したこともないのだが、変態セクハラ客を三十人もあしらうとなると、最初はそれなりに面白がっていたサーシャも終盤はいささかゲンナリしていたようだ。
「感謝や嬉しいのと、キモい迷惑なのが半分ずつくらい」
サーシャの率直な感想はもっともである。レスリング試合なので組みつかれ(抱きつかれる)くらいはまだやむを得ないとしても、サービスのつもりで絞め技や固め技をやっていてリアルに舐められたりすると、本気でゾワゾワ鳥肌が立つのだそうだ。
ついでにただの変態セクハラファンだけでなく、パヨパヨ左翼の大学教授やら在日ピエロ作家なども混ざり混んでいたので、そいつらに関しては全力ラリアットやリングの角に追い詰めてパンチキックのラッシュで過酷にボコボコにした(LGBTの狂った運動での女子スポーツ破壊工作などで恨みがあるし、プロレスなども在日支配ビジネスであるために「居場所がなかった」怨みがあった)。
そういう特設イベントのときにはしばしば、ハード派の専属であるはずの「両脚羊(人肉)調理人」の劉さんが、簡易食堂で中華弁当を売っていたりもするようだ(商売熱心である)。
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また「スイッチゲーム体験」などもやっており、ファン参加のサービスの場合には、賞金を出すのではなく逆に参加料をとる。脱出成功で景品のお化け屋敷みたいなものだろうか。
そちらの鬼はサーシャなどもやるが、専門のサブチームが存在し、大きなサイドビジネスになりつつある。またそちらでは歌を歌ったりアイドルじみた活動も少しやっている。
巻き込まれた瀬戸(美男子であるため)などは、レディースの不良娘たちからリピート挑戦されて閉口しているそうだ。
そういった利益によってコロッセオ本店(マイルド派)の本戦ゲームの内容は幾らかはソフトで低リスクにすることができるようにはなっていた。たとえば女性でも二人がかりならば、レスリングで男を相手に戦って(たとえ死闘で負けても)殺されたりレイプ完遂までいってしまうことは少ないわけで、そういった安全度の高いゲーム比率を一セットの中で増やせるようにはなった。
無論、アングラの危険な賞金ゲームがウリなので危険やダメージゼロとはいかないにせよ、「どうにかして」というのは運営者側の念頭に常にある。ただしあまりにもソフト一辺倒になれば、それによってハードゲーム派にシェアを食われて本末転倒になるため、兼ね合いとバランスが難しいところではあった。
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それはサーシャにとって思いも寄らぬ巡りあわせだった。
ずいぶん前にゲームセンターで出会った少年。たしか名前はカズヤとか言ったはず。不良に絡まれていたのを助けてやった事があって、あのあと同じ場所でもう一度会った。たまたまクレーンゲームで二つぬいぐるみをとっていたので、サーシャに一つくれた。
それで話をしていたら「幼馴染みの女の子が入院していて」とのことだった。ほんの少しだけ、嫉妬を感じたのを覚えている。そして自分のことを「僕は男の子だよ」などと言い張ったのを(超人的な筋力の特異体質がコンプレックスの習い性なものだから)、少しだけ後悔したりもしたものだ。
けれどもタイミングの偶然とはいえ、あえてぬいぐるみなんかをくれたところを見ると、本当は薄々と気がついていたのではないだろうか。そしてそのことがとても嬉しかったし、ずいぶんと良い思い出になっている。
サーシャの立場からすればあまり普通の社会の人間と親しくしすぎるのも考えもので、頻繁に会いにいったりするのが賢明な行動とは言いかねた。だから「用事で立ち寄っただけだ」と、大雑把にぼかしながらも本当のことを言って、それきりだ。
あれから「今ごろどうしているか?」などと思うこともしばしばだった。たいして親しかったわけでもないし、そもそも二回しか会った事もなかったが、好ましい人間の印象があった。しょせん勝手に思い入れている空想や妄想の類だとはわかっていたし、単に淡い恋愛めいた感情を楽しんでいただけだともわかってはいる(超人筋肉体質のせいかどうかは知らないが、サーシャは理知的な性分でもある)。人の頭や心というのは生理的に空っぽの停止状態ではいられず(これが機械のコンピュータと決定的に違うところだ)、欲求や関心を満たす対象を求めたり作ったりしがちなものだから(これはフロイトの「無意識の検閲」作用とは逆の現象だが、そうやって精神のバランスを守っている)。
町中で再会したカズヤは女の子を連れていた。たぶん話に聞いていたあの娘なのだろう。それは興味のある事柄だったが、同時に一番見たくない光景でもあった。これからカズヤを思い出すときにはきっと、今の知らない女の子と二人でいる姿が甦るだろう。思い出が汚れたというのとはまた違うにしても、蛇足のせいでかえって完全さが損なわれたような気もした。
サーシャとしては呼び止めて話しかけようとも思わなかったし、相手の女の子をそれでも興味を持ってチラチラ見てしまう。そうしたら目が合ってしまったけれど、そんなのはよくあることだ。だが反応は予想外だった。
もう一目だけカズヤを盗み見てからさっさと行き過ぎようとしたとことへ、声が飛んできた。
「あの、ひょっとしてサーシャさんじゃないですか?」
それは女の子の方の声だった。
目を見開いたサーシャにカズヤも目を向けてやっと気がついたらしく、こちらに目線を向けるなり表情をほころばせる。どうやら彼は覚えていたようだ。
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