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 サダオは考えた。
 敵の出方や動きによっても、とるべき戦術は違ってくることだろう。二人が別々に歩き回っているときが厄介で、そんなときにウロウロしていたら速攻で発見されてしまう。
 むしろ敵の女二人が固まって動き回ってくれた方が好条件なわけで、こちらとしては接触も交戦もなるだけ避けたい。武器を持った二人というだけでも物騒だし、女相手に本気で暴力を振るうのも気が進まない。一端見つかれば振り切って逃げ切るのは難しい手間だろうし、たとえ追跡不可能なくらいに痛めつけたとしても、「鬼の追加投入」ルールがある以上は意味がないどころか逆効果で不利になりかねまい。
 そして逃げ回って、巧みに隠れるためには、教室の扉は出入りできる程度に開いていた方が望ましいだろう。いざというときに開け閉めするのは面倒なだけでなく、距離が近ければ音や扉の動きでバレる恐れも高い(人間の聴覚や動体視力への反応は馬鹿にならない)。しかも鬼はヘッドライトをつけているのだから、扉を半開きにして光が見えるだけの隙間さえあれば、それで教室内から接近を見て取ることができるだろう。
 できれば相手がどんな具合の作戦態度で、どのあたりにいるかも、ある程度まで把握できればそれに越したことはない。
 
 
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 だからこれまでサダオが教室のロッカーの中に隠れ潜んでいたのは、敵が前の廊下を通るのを待ち構えて、足音などの気配で様子を探るのが目的だった。教室の扉は締めておいたから怪しまれる可能性は低いだろうし、仮に自分たちで教室を覗き込んでもこんな(時間的に余裕がある)戦いの序盤で(教室内の)掃除ロッカーまで調べるリスクはさらに低いと踏んだのだ。
 その甲斐はあった。
 二人の「鬼」女が、前の廊下を二人で話し合いながら通っていった。積極的に交戦する気がないサダオからすれば、バラバラに探索されるよりはやりやすい。しかも「レイプリスク」を気にして怖がっている様子で、まとまって行動している様子でもあった(二人がかりで武器を使って同時に襲いかかれば、男相手でも確実に勝てると考えているようだった)。
 ならばこれはチャンスだ。今のうちに校舎内を回って一つでも二つでも、スイッチを押してしまうのが得策だろう。
 
 
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 二階に上がって、廊下の先に行きかけたときだった。
 ミキとアリサの携帯無線機が振動し、一つ目のスイッチが押された事を知らせてきた。
 それだけではなかった。どうするかヒソヒソ相談しだした矢先に、さっき上がってきた一階から恐ろしい叫び声が聞こえてきたのだった。
 
「どこだあー! 腐れ女どもー!」
 
 それでサキとアリサはビクリと肩をふるわせ、顔を見合わせる。
 今押されたスイッチの場所は一階だとすぐにわかる。そしてそこに、忌むべき攻略者の男がいる。
 
「どうする?」
「どうするって」
 
 アリサは金属バットを握りしめて震えていた。ミキは目に恐怖をたたえながらも勇気を奮い起こした。そして幼き頃からの盟友を励まして言う。
 
「やらなくっちゃ! 二人がかりだったら、どうにかなるって! 勝たなくっちゃ、私たちだっていつまで泣かされ続けたらいいのよ! 男なんてケダモノよ、ボッコボコにしてやればいんだわ」
 
 ミキは妊娠させた男に逃げられて三ヶ月前に中絶した。信じていた男に裏切られて、不安と困惑の中でしがみついた幸福の予感も打ち砕かれ、あんなにも惨めで悲しい気持ちになったことはない。
 そんなときに優等生で名門大学に進学していたアリサが、大学の新入生勧誘で鬼畜サークルの餌食になり、酔わされて集団暴行されていたことを知った。
 だからこれは復讐なのだ。
 二人の女は武器を握りしめて、さっき上がってきた一階へと引き返した。それこそボコボコにしてやるつもりだった。
 
 
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 サダオは廊下の反対側の階段から、一階の廊下の様子を密かに窺っていた。
 ヘッドライトらしき光が見えたので、二人の鬼が挑発に乗って一階に降りてきたことがわかる。
 作戦が当たったサダオは、できるだけ音を立てないように階段を駆け上がる。あの二人が一階でウロウロしている間に、階上のスイッチを押してしまわなければならない。絶好の好機であった。

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