「サバイバル隠れんぼ」
1
夜明けまでの十時間、(廃校になった)学校の校舎の中で「鬼」から逃げ回ってください。その間に指定された場所のスイッチ三カ所を押してください(クリアの絶対最低条件です)。
いったん三カ所のスイッチを押した後はボーナスタイムに突入しますので、一定時間ごとに届く指示に従って指定されたスイッチをサイドに押すと、追加の賞金ボーナスが加算されます。また、通算四回目(つまりボーナス一回目)のスイッチ押しの達成によって、ゲーム時間中の校舎からの中途脱出が勝利と判定されるようになります(それ以後は留まるも逃げるも攻略側の任意で自由です)。
また、鬼は二人とも女性ですが、武装しています(攻略側を負傷させたり殺すなどの攻撃成功によって鬼は賞金が加算されます)。攻略側の反撃や暴行(レイプや殺害すらも可)も自由ですが、それによって(鬼が)「負傷で戦力低下や行動不能」と判断された場合には運営側の判断で鬼が最大三人まで追加投入されます。
2
サダオは慄然としながら教室で隠れ潜んでいた。敵の「鬼」は女とはいえ武器を持って二人がかりなのだから、まず三つのスイッチを押してクリアの最低条件を満たすまでは、発見されたり正面からやりあうような愚は避けたいところだった。
そして「鬼の追加投入」がある以上、下手に殴り倒したりしてもかえって不利になるだけの恐れがある。今回は審判が女性であることがわかっているし、迂闊なことをすれば既存と追加の三人がかりや四人がかりでリンチに遭う可能性も大だった。
たしかに男女の腕力に差や婦女暴行のリスク(それがコロッセオのショービジネスや男性参加者への最大のウリで、逆上による殺害までを防ぐための安全装置でもあるのだが)のことを考えれば、ルール的なバランス調整をしなければ勝負と見世物ゲームとしては成り立たないのかもしれなかった(一方的なばかりのレイプ実況のイショーイベントにしないのが、コロッセオの運営側のアングラビジネスなりの最後の良識やプライドなのだろうか?)。
ここは教室、そして掃除用具のロッカーの中である。教室の廊下側には窓がないし前後の入り口は小さな窓しかない。中をちゃんと確認するには踏み込んで調べるしかないのだが、この序盤ならばまだスライドドアを開けて中を覗き込むくらいのものだろう(しかも今は夜であるし、電気は切れている)。一つ一つしらみつぶしに細かく調べるとは考えにくい。
こんなかりそめの安全を確保して聞き耳を立てつつ、サダオは懸命に頭脳を回転させていた。
3
ミキとアリサは二人で連れ立って夜の校舎内を巡回歩き回りながら、金属バットを持ってヘッドライトで油断なく周囲に目を光らせていた。
「見つけ次第、ギッタギタにしてやるわ。アリサだって、遠慮することないんだからね。どうせ相手の男は鬼畜なんだから、手加減してたらこっちが危ないもの」
潜めた小声ながらにも、ミキの声には強固な意志がこもっている。気が強いというだけでなく、どこか怨恨めいた感情がにじんでいるあたりに何かしらの背景事情が窺える。
ミキの言葉に勇気づけられたかのように、アリサは息をのみつつコクンとうなずいた。二人は高校までの同級生で、親友といって良い間柄だったのかもしれない。
そして両者ともに男性絡みで悲惨な経験があり(お互いの悲哀と同情で男への敵意と殺意は強化された?)、コンビでこのゲームに挑むことになった経緯がある。ミキの目に険があるのもそのためなのだろうが、爪を噛んで苛立ちながら持論を述べた。
「どうせあっちもスイッチを押すために歩き回ってるんだから、どこかの段階で出くわすはずなのよ。早く出てきたらいいのに、ぶっ殺してやるわよ!」
「そのことなんだけどさ。ちょっと、その、おかしくない?」
アリサがイキるミキに疑問を差し挟む。
「もう開始から十五分くらいは経っているはずなのに、もし敵が好きに動き回ってるんだとしたら、一つくらいスイッチ押されてておかしくないのに、その通知がないなんて変だと思う。もしも」
そこでアリサは言葉を句切り、恐れていることを口にする。
「もしも敵が普通にゲームで勝つんじゃなくって、「私たちのこと」を狙って、どこかに隠れてたら? 私、怖い」
周囲を不安げに見回すアリサにつられ、ミキもギョッとした顔で背後を振り返った。コッソリ後ろからつけられているような気がしたからだ。
疑心暗鬼は加速しつつあった。
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