2ntブログ
※「ノベマ!」に近ごろ投稿しているスマホ書きの携帯小説「れとりばりっく!」vol3の第一話。かなり簡潔な書き方(?)で、プロット・アイデアの原案やコンデンスノベル(濃縮小説)みたいなもの。
※備考)ちなみに、この2NDブログは「空白行」が上手く反映されないようなので(編集ページから入力した空白行が反映されず、行が詰まってしまう?)、「改行+スペースキー+改行」で無理矢理に(このブログの記事の文に)空白行を表現しています。
 
 
1
 新たに避難民の移住したリベリオ屯田兵村では、急速に開墾と田畑の拡大が進められていた。
「はーい、本日はこちら!」
 サキが片手を上げて、荷車に積んだジャガイモの種芋を示す。それは「血のジャガイモ」とか「ピンクパタタ」とか呼ばれる特殊な品種で、魔族にとっては人間の血肉の代用食にもなる代物(魔族は人間の肉を食べて「特殊な酵素や栄養分」を補給しないと健康が維持できない)。
 彼女は父親が魔族の伯爵(中級魔王)の混血ハーフである関係上から、どうしてもそういう特殊な栄養補給が必要なのだそうで、サキュバス行為以外に自分たちで栽培していた。それはサキ本人の好物であるだけでなく(ただし通常の多くの魔族にとっては「粗食」とされているらしい)、人間にとっても普通に食べられる食物であるため「普及・作付け拡大を望んでいる」そうだ。
 味こそはやや独特なのだが、サキは上手に料理して、しばしば「領民」やこの屯田兵村の皆にも振る舞っている(お得意でお楽しみらしい)。似たような効果の「紫のハーブ」も栽培してお茶やサラダやスープの材料にしており、そちらは薬効があるので野戦病院などにも納入している。
 そこで、ここぞとばかりに、これまで栽培して保管していた分を持ち出してきたのだとか。サキは包丁で切ったジャガイモを掲げて示す。
「ご覧くださーい、この麗しいサーモンピンクに濡れた色合いを! こんなに可愛いお芽芽が出てます。短期間で育つので、耕した畑に種付けします! ハッスルしてきましょう!」
 もしこれでサキが人間に敵対的で邪悪で性格が悪かったら、恐るべき魔女王にでもなっていたことだろう。ほんわかで天然さん、ちょっと繊細らしく、領民以外からも好かれている。
「あいっ!」
「おー!」
 レトたちも、サキの配下・臣下の人間の「領民」や新しい避難民の村人たちと手分けして、切って灰を塗った芽つきのピンクパタタを植えていくのだった。
 カエデやミケナ・フロラは、包丁でジャガイモを切って、切り口に灰を塗る作業にいそしんでいる。エプロン姿で包丁を手にしたカエデはたどたどしくも初々しい。ボーイッシュな武闘派のドワーフ娘にはミスマッチのようでいて、とても似合っているのは「やっぱり女の子だなー」と、レトは密かに感慨を抱く。
 いくら外部や他地域からも食料や物資を購入できるとはいえ、主食などは自給生産できるのが理想である。ファンタジックな冒険と戦記の世界であってたとしても、現実の地道な生産や経済活動がないわけがなかった。
 
 
2
 洞窟の工房で、鉄板の下で青白い魔術の炎が緑や金色の光を取り混ぜて燃えている。炙られているのは、打製や磨製の「石器」。クリュエルは「付呪」のために焼き入れ作業にいそしんでいる。
 通常、付呪というのは武器や道具に魔法効果を付与する行為なのだが、様々な限界や用途の制限がある。剣や槍に付与すれば攻撃力が上がる反面で、高い負荷がかかって磨耗や劣化で耐久性が低下してしまったり、あるいは特殊な高級素材使わなければならない。もちろん製造コストも値段も高くつく高級品になりがち。
 だが、クリュエルは独自のノウハウと技量で「石器に付呪する」ことができる。一見は馬鹿げているように思われても、発想の盲点を突いた「魔法石器」は案外にメリットは大きい。
 まず、「使い捨て」が前提であるから、耐久力の限界を無視して、一発で壊れるような高レベルなパワーを付与できる。当然ながら素材も安くすみ、材料の入手も手間と費用がかからない。消耗品として扱えるから事後の回収の必要がなく、投げ槍や矢じりにポンポン使える(高級品の魔法剣などではやりづらい戦術が可能になる)。
 また、一度作った魔法石器は魔法能力がなかったり力が足りない人間にも使用できるから、護身用に持たせたり、戦闘時の一斉射撃にも使用できる。弱者にとって、たった一度か二度でも強力な攻撃を繰り出せることは、魔物や盗賊と遭遇した際の生存率が格段に向上するだろう(大規模な戦闘時には、強力な補助戦力にもなる)。
「クリュエルさん。木炭と硫黄です」
「ああ、ありがとう。そこに置いといて」
 レトは木箱に入れた燃料・素材を持ってきた。
(ほんと、見た目だけは原始人みたいだ)
 だが、内実を知っていれば頼もしい限り。さすがは義兄のトラの友人・先輩なだけのことはあると、レトはひとかたならず尊敬の眼差し。
「トラは?」
「トラップの再設置だそうです」
「そうか。今晩はキョウコがとっつかまえてきたイノシシ鍋だから、お前らも食いに来い。帰ってきたら伝えといて」
 クリュエルの魔法石器は製造後には独立した道具で、使用するまで永続的に効果を持ち続け、トラの魔術トラップ以上に長持ちする。逆にトラの魔術トラップは自由に制御しやすい反面で、一定期間で自動消滅してしまうし、同時に上手く扱える数も限られるという(何よりも、トラ本人以外では操作できない)。どうもお互いに、わざと特性や長所をずらして、相互にカバーできるように考えたらしい。
 
 
3
 仮設住居のテントの中で、トラに付き添っていった姉(犬鳴ルパ)が、また日記を開きっぱなしにして置いていた。わざとノロケ目的で、弟のレトの見える場所に置いている。義務感と興味で、とりあえず拝見する。
「腕枕で仰向けになって、そのまま抱き枕にされた。耳元で「いにゅ(犬)」と甘く囁かれ、オキシトシン(愛情ホルモン)が急上昇爆発。お慕わしいので、のしかかって「生犬布団」してやった」
「不意打ちで背後から前脚で抱きついて、親愛のパンチング呼吸を耳に叩き込む。高いめの体温と適度な重みで肩こりも心身疲労も滅殺してやる。犬の愛の魔法を思い知らせてやった」
 やっぱり、いつもどおりの姉でした。
 この「獣エルフ」の姉弟、レトは直立二足歩行のレトリバー狼男に変身するが、姉のルパは四本足の大きな狼。ただし姉はトラに対して激しい犬化しているようである。
 思い起こせば、姉は変身の都合上に「裸族」の傾向があり(狼に変身すると人間用の服は邪魔になるため)、家や森の中ではよく裸同然でウロウロしていたものなのだが。ようやく恥じらいや気取りを覚えたらしく、近ごろでは衣服をちゃんと身につけていることが多くなったが、反動やストレスなのか犬(狼)の姿でいる比率やその犬のままでトラへの甘え方が猛烈だったりする。
 ここに脱ぎ捨てた服があるということは、やっぱり犬の格好でお供したらしい。見慣れているはずの姉のパンツがやたらと生々しくて、レトは少し頬を赤らめた。
 
 
4
 大規模な転移魔法で避難民たちが移設した、ドワーフの精錬炉もある。通常の人間のやり方での金属精錬や焼き入れなどでは、大量の燃料消費や各種の不都合があるのだけれども、ドワーフたちには独特の魔法技術があるのだ。
 今日もアルケミス工房で、友人のドワーフ少年ルークスが修行を兼ねて作業中。
 キラキラ煮えたって、鉱石から絞り出された金属から、浮かび上がったカスを魔法の熊手でよりわけている。これから製品にするには、炭素や微細成分の含有量も調整しなければならず、その面でも「ドワーフの魔法技術」は物を言う。魔法・魔術というのは必ずしも戦闘や治療回復だけではなく、特にエルフやドワーフにとっては産業的なノウハウでもある。
「これ、成分調整が難しくってさ」
 切り取った金属を、トンカチ・ハンマーで叩きながら説明してくれる。それこそは、彼が訓練中の技術魔法の一環なのだ。
 成分が均質になるように、何度も叩いて折り曲げ、混ぜる。そんな作業ですら、人間がただの物理的な腕力だけでやろうとすれば、大変な手間だろう(第一に、加工するのに加熱するだけでも、ただの物理的な技術だけなら大がかりな設備や大量の燃料が必要になってくる)。だから人間はドワーフに冶金技術ではなかなかかなわない。
 そして、ドワーフの種族は力が強いものの、戦闘や蛮行よりも生産的な活動に打ち込むことに興味や感心が強いようで、そのあたりも下級なゴブリンなどと異なる(彼らが文明人の一種とされるのは、血統や遺伝子が人間に近いだけでなく、種族としての性格による部分が大きい)。もしも彼らに建設的で良い趣味がなかったとしたら、人間やエルフとの共存など無理だったに違いない。
 
 
5
 夕食に招かれて、みんなでクリュエルのグループの合同食堂へ行く。
 事前に、イノシシ鍋用の肉を渡されて、サキ(サキュバス姫)の領民グループの合同食堂へも持っていく。レトとカエデは大きなお鍋(食料品用の金属バケツ)に入れたお肉(かなり重い)を二山ほど持っていき、厨房のサキや女たちに声をかける(サキの特殊な性質上、多くはとっくに「義姉妹や義母」の関係であるらしい)。
「お肉を持ってきました。スープの具材に使ってくださいとのことです」
「ありがとー。こっちのも、持ってってあげて」
 サキは機嫌良くリズミカルにエプロンと腰を揺らして(束ねた綺麗な髪が揺れるのが、上機嫌な高級犬の尻尾を連想させる)、紫ハーブのお茶用の乾燥処理済み一山を手渡してくれる。調理済みのピンクパタタと香草類のマッシュサラダを入れた大鍋(台車つき)も。
 いかんせんに人数が多いこともあって、全員が一カ所の食堂・会堂でというわけにいかない。大きな共同の厨房が幾つもあって、週数回くらいの会食・ご馳走の日には、各グループでつくった料理をお互いに融通しあう習慣になっている。
「ありがとうです」
 戻ると、次のミッション。
「そうだ、そろそろパンが焼ける頃かしら。パンを運ぶのも手伝ってあげたら? それから、避難民キャンプ方にもこのお肉を」
 この田舎の若女将のような風格のキョウコさんは、森林エルフの「マタギ」(狩人)。みずから仕留めたイノシシ肉を誇らしげに配っている。
 カエデは妙に張り切っている。
「はい!」
 キョウコはカエデなどからすると、体育会系の英雄な先輩的な意味でリスペクト対象らしい(魔族を鉈で何人も血祭りにあげた実績がある他、「山の女神」と殴り合って、誘惑されたクリュエルを奪還・確保してきた猛者でもある)。レトの姉のルパとも狩猟友達らしい(サキとはライバルでもあり良い悪友でもあるそうだが、リベリオ屯田兵村の「裏の実力者・三大魔女」にすら数えられている?)。
 避難民キャンプに肉鍋を運ぶのが二往復。
 それから食品用の荷車で焼き上がったパンを各グループに輸送する。ミケナ・フロラはパン焼き窯の手伝い。
 チーム・レトリックの本日ミッションは「晩餐の準備」。報酬(お駄賃)はクリュエルの魔法石器。
 
 実はクリュエルの魔法石器は(物々交換や商品価値として)少額貨幣に相当する価値があるため、取り扱いの難しさがあって取り引きや渡す相手が限られるものの、ほとんど少額貨幣の「造幣局」と変わらない。必ずしも自分で保持や使用するだけでなく、倉庫の「銀行」担当係に預けたり換金や別のアイテムとの交換も可能。
 クリュエル自身も「ここまで経済価値が出るとは思っていなかった」。リベリオ屯田兵村や反魔族レジスタンスの貴重な財源になっており、洞窟の工房で引きこもって魔法石器の製造作業が主な仕事になっている。優秀な魔法戦士で指導者のはずなのだが、やっていることが町の職人と変わらず、付いたあだ名・敬称が「リベリオ造幣局・石器貨幣の幹事長」。
 ご本人様は複雑な気分のようで「これが現実だよ、世の中は難しくて厳しいのさ。世間の勇者や英雄のイメージとはかけ離れてるが、こういうやり方の方が有効で有益なんだからしょうがない。もう監禁労働の奴隷とあんまり換わらんような気がしてくる」などと、いつぞや(魔法石器の製作作業しながら)レトに語っていた。レトとしては大人の世界のリアリズムを垣間見て、「この人が戦闘力と特殊技能や政治・戦術の知力と人柄で大将リーダーになるのは必然だった」と納得。彼がいなかったら、おそらくリベリオ屯田兵村は規模や戦力を維持できないことだろう。
 
 
6
 翌日のミッションは「パトロール」。
 面目躍如で、背中に大剣を背負う。
 このリベリオ屯田兵村や近隣の森林や街道を歩き回って、怪しげな者が侵入してきたり、魔物がいないかの警戒活動。
 一定以上の危険を発見した場合には、信号弾や魔法通信でリベリオ屯田兵村に連絡したり、防衛軍の最寄りの詰め所に報告。
「出発!」
 意気揚々としているドワーフ戦士娘のカエデ・ジャロスタインだけれど、実際に重要なのはむしろレトの探知能力。獣エルフは聴覚や嗅覚が鋭敏で、変身時には野生動物のような生体レーダーになりうる(姉のルパが義兄のトラに散歩で付きそうのも、哨戒活動の都合でもある)。ただし変身時には「狼男」になってしまうので「魔物と間違えられる」誤認リスクがあるため、同士討ち防止と緊急時の戦力のためにカエデなどがご一緒する。
 魔力面での探知を強化するため、エルフのミケナ・フロラもついてくる。
 そうしてパトロールしていると、この頃ではどこかのアビスエルフなどが「独立運動キャンペーン宣伝」をやっていたりするが、この地方を孤立化させるために(スパイとして入り込んできて)政治工作しているのだ。一度などは乱闘になりかけた。
「あの鮮魚人どもめ、このあたりで次に見つけたらぶち殺してやる!」
「おう、鍛冶屋君の豪腕で頭かち割ってやれや」
 新しい新規隊員のルークス・アルケスミス少年が怒りの表情で、大型の斧槍を担いで歩く。自分たちの村が政治謀略で売り飛ばされて避難民状態にされたため、鍛冶屋志望でも義勇兵のようになるしかない。同じドワーフでも、目を血走らせているカエデは「女戦士」だが、たぶん本気で喧嘩したらルークスの方が強いかもしれない(一口に戦士と言っても、パトロール警官や警備兵と、上級の特殊部隊では差がある)。
 最近のパトロールでは、乱闘や襲撃されるリスクがあるため、レトも同伴が女二人では危険で心もとない。話をすると「よし、オレもついて行ってやる」と快く協力してくれることになった。レトとも良い友人だが、どうもカエデが好きらしい?
「カエデってさ、確立が三分の一くらいで、レト君かルークス君とくっつくのよねえ。レト君は今の気持ちではカエデのこと、どう思ってる?」
 ミケナ・フロラがボソッと密かにレトに耳打ちする。耳を触って玩びながら。彼女は「タイム・ループしているタイム・ルーパー」なのだそうで、様々な可能性や未来を見てきたのだそうだ。冗談好きの彼女のことだから鵜呑みにはできないけれども、少しくらいは余地や未来視ができても不思議はないように思う。
「さあ?」
 レトは当惑気味に小首を傾げた。
 カエデのことは好きか嫌いかと言えば好きだろうが、あまり本格的に恋愛や結婚の対象としては考えていない気もする。
 すると、ミケナ・フロラは指を立てて言う。
「私と不倫や浮気する未来もあるんだよねえ。それから、展開によってはトラが過激派やラスボス」
「それ、どこまでご冗談で?」
「ほんとのことだってば! 見てきたもの!」
「そうなんですか?」
「そーよ」
 ミケナ・フロラは真面目な面差し。レトは向き合った顔と瞳を覗き込んだが、この人の真意は知れない。悪戯好きで、ストレートな姉のルパやあのサキ以上に人を食ったようなところがある。
 こうして、チーム・レトリバリックの地道な日々の冒険とミッションは今日も続いている。

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