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鬼畜暴力と狂った人間1(残酷、閲覧注意)

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 コロッセオ本店のロッカールーム前の廊下だった。
 
「それでその後、食欲不振とか生理不順とかは? あのガキを射殺して何か境地でも開けたか?」
 
 サーシャの前に現れた間宮はどこか楽しげに問いかけた。汚職政治家とロシアンルーレットをしたときのことを言っているのだ。
 三十代半ばのこの男は、彼女とは奇妙な関係だった。何しろ彼女をコロッセオ(の後のマイルド派)の初期団体に紹介したり、警察当局の関係者に引き合わせたのは彼なのだから。
 嫌なことを思い出していたサーシャはムスッとして目をそらして「別に」と言葉を濁す。あのときの最悪な気分はこれまでの人生の中でもワーストスリーには入る。
 すると間宮はどこで聞きつけたのか、こんなことを言う。
 
「お前って瀬戸に誘われたらしいがハードゲームは止めとけ。お前では勝てない」
「勝てないってなんだよ!」
 
 つい声を荒げたのは、はなから決めつけられて勘に触ったからだ。サーシャは気が強いところがあるし、能力にも自信がある。
 ところが直後に、いきなり間宮から手を伸ばしてシャツを引きちぎられて、スポーツブラが剥き出しになった。サーシャは胸元を隠して狼狽えた。
 
「な、何するんだよ!」
「ほらな。お前は勇敢だが、悪意が足りない。スポーツ競技とは心構えが違うんだよ。こういう卑劣を競うような界隈の戦いで勝てるのは、むしろ韓国人みたいな姑息な犯罪精神だ」
 
 間宮は韓国や韓国人が大嫌いなくせに、ずいぶんと奇妙な考え方をするのだ。「人類の最後には韓国人みたいな卑劣を極めた奴らしか生き残らない」「人間の世の中は犯罪者が家畜を食い荒らして統治しているだけ」というペシミズムや退廃的な見方。それ故に「韓国人を見習え」という発想が出てくるのだから皮肉なものだ。
 サーシャは恨みがましい目で睨み返す。片手は胸元を隠してわなないている。
 
「まともな奴はああいう最低の戦いでは優秀でも負ける。地獄で勝ち残るのは気持ち悪いくらいの頭がおかしい奴なんだって、わからないくらい馬鹿なのか?」
「だけどさ! このままあいつらを放っておいたら、コロッセオだって」
「あいつらってのは俺のことも含めてか? 俺がハードゲーム側だって忘れたのか? だいたい、お前は俺が先手を打ってお前を始末しにきたとは思わないのか?」
 
 言葉が終わらないうちに、間宮の手には拳銃が握られている。小さなデリンジャー拳銃で、二発しか撃てない。しかしこの近距離で間宮が外すとは思えない。そもそも単純に素手で戦ってもサーシャに勝ち目はない。
 たぶん警告や牽制にきたのだろうとは薄々と察しがついてはいた。だがいきなり「始末」されるとは思わなかった。こいつらはゲームの試合以外でも平気で人を殺したり、卑劣なやり方を厭わないし、むしろそういうやり方が得意で卑怯を好んでいるのだ。
 
「とりあえず、そこで土下座で命乞いしておこうや。その前に服全部脱いでおけ」
 
 サーシャがどこまで本気なのか探ろうと、口を開こうとしたら蹴りが飛んできた。
 蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。
 地べたの壁際で丸まるように蹲ったサーシャを、間宮はスマホで撮影し(メール送信)、電話をかけ始めた。
 
「ああ、俺だ。今し方、ちょっと躾の悪いパフィー(子犬)ちゃんを懲らしめてやったよ。また何かあったら言ってくれ、こいつは生かしといた方が金になるし、割といいオモチャなんだわ」
 
 サーシャは顔を上げて様子を窺うと、今度は顔を蹴られた。間宮は「今度はお前の飼ってる犬っころと仲良く裏ビデオにでも出てみるか?」などと嘲笑って、その場を後にする。目に涙が滲んで口の中は血の味がしていた。

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