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廃業して間もないビジネスホテルの前に集結した四人の男たちは不穏なやる気をみなぎらせていた。見た感じからしてスキンヘッドやらタトゥーやら、ファッションと雰囲気からしてもワルだと一目でわかるし、犯罪と暴力の臭いがプンプン漂うようだった。そのうち一人だけは普通の背広姿だが(政治家の秘書であるらしい)、こんなときにこそは本質的な下郎外道スピリットが表情にありありと表れている。
あの運転手の進藤が愛想の良い諦めたような表情で最終的なルール確認をする。
「スイッチは八階と七階と六階になります。エレベーターは使用できませんし電気も止まっております。十時間以内に全てのスイッチを押して、なおかつこの建物から脱出できたらゲーム成功です。賞金と偽造パスポートをお渡しして、国外脱出の手配場所にまでお送りします」
すると、男の一人がもう一つのことを確認する。
「中で「女の鬼」がいて妨害してくるんだったな? そいつは好きにしちまって良いんだよな?」
「ご自由に。ですがお勧めはしませんね」
「よくわかった。それじゃあ待っててくれ。ちょっと時間がかかるかもしれないけどな」
「それではあと七分でゲームスタートです」
男たちはゲラゲラと笑いながら廃墟のホテルに入っていく。
しょせんは女の細腕で厨房から包丁でも持ってきたり、何かを振り回してもたかがしれている。せいぜいスイッチのある部屋に鍵を掛けたり立てこもるくらいが関の山だろう。
「おっと、念には念をだ」
まず最初に、ロビーで指定された部屋の鍵を確保する。そのままにぶら下がって放置されていたので、やや拍子抜けした。
非力な女の鬼は十五分前には裏口からこのホテルの建物に入っている。予想される一番合理的な戦術は、スイッチ部屋(今回は鬼と攻略側の両方が事前に知らされている)の鍵を先に確保して(開放状態の)ドアを封鎖し、残りの時間を逃げ隠れしたり立てこもることだろう。
それだけにドアを強引に破壊したり、捕まえた鬼の女を拷問で痛めつけて鍵の隠し場所を白状させたりの手間を危惧していたのだが、どうやらそれも杞憂に終わったのだろうか?
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先行入場で準備に与えられた十五分間でサーシャがやったのは、三つのスイッチ部屋の鍵を持って階段を駆け上がり、封鎖することだった。しかも鍵についた部屋番号目印のキーホルダーの金具を指で強引に開いて付け替え、別の部屋の鍵(役に立たない)を元の戸棚にフェイク(偽物)として置いておく。
なお(この作品で何度か触れたが)サーシャの体力や腕力は桁違いなのである。最初は力技でのドア封鎖も考えたが、かえってドアノブを壊すだけのような気がしたので普通に鍵をするだけにした。
さらに恐ろしいことには、一階まで駆け戻って隠れ潜み、男たちが(偽の鍵を受付から持って)二階へ上がって行くのをやり過ごしていたことだった。
彼女があえて欲しかったのは実は間食で、馬鹿どもが上で右往左往している間に少し厨房でも漁るつもりだった。冷蔵庫は止まっていても、スナック菓子や缶ジュースの置き残しくらいはあるかもしれない。
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