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代理決闘の綾でした(廃校編の後日談)

「代理決闘の綾でした」
 
 
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 リングに上がったアヤは憤怒に顔を夜叉のようにしていた。平素の可愛らしさは影を潜めて眼差しには迷いのない殺意がギラついているのだった。
 対戦相手は二十くらいの青少年だったが、こんな場所にいることからしてろくな人間であるわけがなかった。どうせ大学のレイプサークルとか、そんな背景なのだろう。一昔前に「スーパーフリー」なんていう名門大学の、サークルを偽装した婦女暴行集団が明るみに出て騒ぎになったことがある。その手の事件ではしばしば共産党員やら一部の在日外国人やらが噛んでいたりするのだが、大学なども買収されて見て見ぬふりするなど悪辣さはたいがいである。
 そろそろ綾だってキレていた。一般に女は男より温和で、闘争心には欠けるもののように考えられている。しかしそれもケースバイケースで、本当に大事なものや愛するものがかかっている場合だの、極度の危険にさらされた場合の自衛本能の爆発や痛めつけられ恨みの蓄積でキレた場合などはどんな紳士淑女でも同じだろう(日本人や自衛隊なんかもそうだろうよ)。状況と次第によっては男以上の凶悪さと暴力性を発揮することがある(それは人間全般に共通する本質なのであるから仕方がないだろう?)。
 アヤはレスラー選手風のコスチュームに特殊警棒を握りしめていた。彼女は剣道の有段者。
 これも「コロッセオ」独特の男女対決での偏向ルールで、一対一の場合には武器使用が許可(女性側)されたり、男は打撃攻撃禁止だったりで、腕力や体力の差を調整して「勝負として成り立つ」ように配慮されている。
 ちなみに昔のヨーロッパの男女間での決闘では、女側が代理人を立てたり、あるいは男性側が地面に掘った穴に腰まで入って動きを制限するハンディキャップをつけたり、苦慮と工夫を凝らしていたそうだ。男女に限らず、社会的地位や年齢や職業や能力、国や民族やなんやかやで、人間は個々の相違ゆえに存在や関係性そのものが理不尽で差別的にできている。それだからこそ、何をもって「フェアで公正」とするか、いかにしてなにをもって「平等」とするべきかは、人間が人間である限り終わりのないテーマなのだろう。
 
 
2
「ごめん! ほんとにごめん!」
 
 特殊警棒でボコボコにした試合後に、真相を知ったアヤは手を合わせて平謝りに謝っていた。
 この試合は本当は(最初に予定では)「女同士」での戦いだったのだそうで(負けた方はもう一回追加で戦わなくてはいけない)、少年は(ルールに則って認められた)代理だったらしい。そしてわざと負けて勝ちを譲るように指示されていたのだとか。なんと本来の対戦相手は一度目のプロレスで共闘したマナミであった。
 
「いいのよ、コイツにはいい薬だし、本人もちょっとは気が楽になったっぽいし」
 
 マナミはクスクス笑って、少年の頭を撫でた。あの廃校スイッチで鬼役だった少年は、彼氏(暫定)になったようだが、希望して代理で出場したのだという。
 とはいえ二人とも、まさかアヤがあそこまで荒れ狂うとは予想を超えていたようだが。それで少年は感想を求められて「みんなオニババに思えてきた」と、虚脱した遠い目で答えるのだった。

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