※第三章完結? 「ノベマ!」に近ごろ投稿しているスマホ書きの携帯小説「れとりばりっく!」vol3。かなり簡潔な書き方(?)で、プロット・アイデアの原案やコンデンスノベル(濃縮小説)みたいなもの。
※備考)ちなみに、この2NDブログは「空白行」が上手く反映されないようなので(編集ページから入力した空白行が反映されず、行が詰まってしまう?)、「改行+スペースキー+改行」で無理矢理に(このブログの記事の文に)空白行を表現しています。
1
中央部の都市ノイ・キョウでは二人の「人質」を巡って、ついに軍部と魔術協会の対立が激化しているのだそうだ。戦士主体の防衛軍からすれば、親魔族ギャングと戦っていたサワラ(元軍曹)やヨナ神父は勇士で、クリュエルなどの反魔族レジスタンスは共同戦線の友軍ということになる。一方の魔術協会からすれば、自分たちの政治的地位による権益(親魔族のギャングや腐敗政治利権も含めて)が脅かされていることになる。
本来は人間側の戦士と魔術師は連携協力するものなのだが、魔術協会の選民思想・親魔族的な態度で正常に機能しなくなってきている。結果が、軍による批判・反発と魔術兵器増強による独自の軍備強化で、魔術協会はそれを阻止や妨害するために魔法マテリアル鉱山の独占や規制のための政治工作に走った。軍が勝手に自分たちで魔術兵器を大量に保持・運用するようになれば、魔術協会や大部分の魔術者たちの価値や地位は低下し、政治的な発言力も低下してしまうから。
関連する、ほぼ同様の理由で、クリュエルの作る強力な「魔法石器」も危険視されている。なぜなら、それらは特殊で高価な魔法マテリアルの材料を必要としない。クリュエル個人の能力と才能に依存して初めてできる芸当とはいえ、それらがノウハウ蓄積されて普通に一般に普及される可能性も皆無ではない。またクリュエルは反魔族レジスタンスとして魔術協会の指示を拒否しており、その存在によって辺境都市への政治工作がうまくいかず、現地の軍への(魔術協会や親魔族ギャングによる)影響力も低下している。
だから、サワラやヨナ神父の身柄拘束は、クリュエルへの政治圧力でもあり、抹殺のための布石でもあった。
2
「ほら、やっぱり!」
荒野を旅するクリュエルに、四方八方から魔法狙撃が襲いかかる。エルフの魔法の皮鎧を身につけて、さらにはトラと二人がかりでリアクティブアーマーに仕上げたマントまで上に羽織ってきた甲斐があった。
それでも心もとない。
黒曜石の魔法石器を幾つも空中に投げ上げて、周囲に浮遊させてバリアを張る。荒れ地の上を魔術でホバリングして滑りながら進んでいく。
逐一に戦っていられない。応戦して撃ちかえしても必ずしも当たるわけでなく数も多いから、魔法力を浪費させられるだろう。接近戦に持ち込んで剣や格闘で始末するためにはあまりにも距離が離れ過ぎているし、たとえ一人二人を切り伏せたところで、他にも大勢いる。
ちょうど進路の近くにいた馬鹿者を、愛用の「処刑刀」の一太刀で斬り伏せる。魔術者たちはこの手の古典的な戦闘手段を粗野・劣ったものと忌避する傾向があるが、至近距離で対峙した場合には便利である。集中攻撃している他の者たちが近寄ってこないのも、その威嚇効果によるのだろう。
だが、相も変わらず魔法狙撃は続く。適当な距離をとりながら、敵も包囲隊形で高速移動して追跡してきているのだろう。
(実にしつこい!)
短期間で日程をこなすために魔術で高速移動しているから、他に普通の戦士の護衛や人員を連れてくるわけにもいかなかった。味方の魔術者やエルフの強力な魔法使いなどは人数が限られているのだから(弱い魔法使いを連れていっても集中攻撃の巻き添えで殺され、かえって犬死にさせるだけになる)、辺境地方の守りから何人も引き離すわけにはいかない。
敵からすれば「クリュエルを殺せる千載一遇のチャンス」なのだろう。こういうチャンスを作るためにわざわざ司法まで悪用して、詭計を仕掛けてきたのかもしれないが。
3
ラーザロ・マルクトがリベリオ屯田兵村にやってきて滞在し(その間、代わりに防衛のために睨みを効かせてくれる)、三日後にはクリュエルは中央部の都市ノイ・キョウに旅立った。
軍側の憲兵部・軍法会議がサワラやヨナ神父の「証人としての身柄引き渡し」を要求しており、それが成功すれば信用できる者たちで安全に保護されることになるから、実質的に人質を奪還できたのと同じことになるだろう。
魔術で高速移動すれば三日もかかるまい。
だが途中での襲撃が予想され、的中した。
4
荒野の追いかけっこは終わりなきかに見えた。
しかし、クリュエルにも策はあった。
「見つけた!」
それは、先に旅立ったトラが事前に旅路に設置しておいてくれた魔術トラップ。
魔術円に入ると、周辺の他のレーダー・トラップから敵の位置が把握できる。
その瞬間、クリュエルは一度に二十個ほどの小さな魔法石器を放つ。不可解な放物線で追跡弾頭になって飛んでいくのだ。これまでに反撃を予期していなかったこともあってなのか、あらかた命中したようだった。
「もう一丁! くたばれ!」
また別の魔法サークルに入るなり、両手で魔法石器を二掴み投げる。本来なら鏃の先に使うものなのだが、使用する本人が魔術者ならば投げるだけで十分な飛距離や威力になる。
夕日の荒野で反撃と虐殺が始まった。
この豆撒きは害獣駆除だ。わざわざ執拗に集団でクリュエルを暗殺までしようとするのなら、魔術協会の親魔族ギャング派閥しかありえない。それに、こんな荒野での襲撃・暗殺未遂はテロリストや盗賊として殺してしまっても、現行犯への対応・正当防衛などで法律的にも建前は通るから。
5
日が沈んだ都市ノイ・キョウ。
先行していたレトとトラは官憲側の協力者たちの手引きで監獄に潜入した。レトは獣エルフだから、変身してあの耳の垂れた狼男になれば、トラの魔術による高速移動にも走ってついていける。
警官や軍人たちは腐敗政治家やギャングから睨まれるのを恐れて、直接に拘束されているサワラやヨナ神父を逃がすことまではしたくないが、せめて救出や脱走の手助けはしたい者が少なくなかったようだ。監獄から助け出せば、軍の物資輸送馬車に乗せて、都市の外部まで送って貰える手はずになっていた(通常は城門と交通は夜間には閉ざされているのだが、防衛関係の物資輸送は例外)。
「ゆけ、こいにゅー!」
レトは魔法オーラで半透明の「仔犬」の形を形成し、門衛や守衛たちに、鷹狩りのように放つ。抱き留めたり顔面に張りつくと「和んでしまって戦意喪失」。
「ナイスだ。罪のない奴らまで殺したり暴力ってわけにはいかないからな」
トラは親指を立て、レトも得意げににんまり。
やがて目当ての地下牢獄に辿り着き、やつれた二人の人質を救出する。
「さっさとずらかろう」
「だな!」
「ですね!」
喜びも束の間、待ち伏せで待機していた魔族と鮮魚人。
けれども、トラはコーンパイプを取り出す。レトは怪訝な顔になる。
「あれ? トラって煙草吸うんですか?」
だが、トラの意図はシャボン玉だった。
「は?」
魔族・鮮魚人に細かいシャボン玉が幾つも流れていき、そして当たると高圧電気が流れるようだった。シャボン玉に魔術トラップを仕掛けられるのはトラくらいのものだろうが、だからこそ敵の予想を超えていた。
目を白黒させ、「卑怯だぞ」などとほざく魔族にもう一吹き。強烈な電気は痛みやダメージだけではなく、筋肉を思うように動かなくする。
それでも強引に突っ込んできた鮮魚人を、バックステップでかわす。鮮魚人はその場でトラが仕掛けていた「浮遊拘束トラップ」に引っかかって、中空に藻掻くばかりになる。
どうにか魔族が(場所も構わず)魔法攻撃を仕掛けようとしたときには、トラのノコギリのようなフランベルジュ剣が喉に食い込んでいる。一振りで頭がサイレントに転げた。
6
トラとレトは軍の物資輸送馬車で都市ノイ・キョウを脱出し、安全な場所で下ろしてもらう。また捕まってはたまらないから、追加の護衛として別の伝令・パトロール警官隊と同じルートで帰るのだ(たとえ正式には同行していなくても、一緒に近くを歩いていたら同じことだ)。
お出迎え(と追加の護衛)に来ていたのは、ミケナ・フロラと姉のルパ。入れ替わりでトラは別行動をとって、囮になっていたクリュエルの援護と救出に向かった。
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