2ntブログ
※「ノベマ!」に近ごろ投稿しているスマホ書きの携帯小説「れとりばりっく!」vol3。かなり簡潔な書き方(?)で、プロット・アイデアの原案やコンデンスノベル(濃縮小説)みたいなもの。
※備考)ちなみに、この2NDブログは「空白行」が上手く反映されないようなので(編集ページから入力した空白行が反映されず、行が詰まってしまう?)、「改行+スペースキー+改行」で無理矢理に(このブログの記事の文に)空白行を表現しています。
 
 
1
 その夢の中で、ミケナ・フロラは牢屋につながれていた。とっくにひととおりに乱暴されたあとで、破れた服を汚れた身体にひっかけて、金髪はボサボサに乱れている。
 やがて、下っ端の鮮魚人の看守がやってきて、また乱暴されてから、縄をつけて小突かれながら引きずり出される。水をかけられてから連れて行かれた場所は、魔族の宴会場。
 泣き叫んで抵抗しながら、両手を鎖で吊され。
 もう労働奴隷でも性暴力でもなく「食肉」。
 包丁を持った魔族の調理人が迫ってくる。これから活け作りのように、宴会の客たちの前で調理されるのだ。先に切り刻まれた犠牲者が血塗れで絶叫しているのを、魔族たちが笑って眺めている。
(大丈夫、私は死んでも別の世界でやり直せる!)
 ミケナ・フロラは気持ちを強く持とうとする。
 死んでもやり直せる、は妄想ではない。
 なぜなら彼女は何度も「タイムループ」しているからで、失敗したり死んだ場合には、別のパラレルワールドの過去に意識が飛ばされる。つまり復活してやり直せる。森林エルフで寿命が長いこともあって、およそ十年前後という長い時間だ。
 けれど、この現実は本物なのだ。
 それにタイムループが自分の妄想に過ぎないかもしれないという疑いもある。不完全ながら「知っている」から予測したり予知のようなことができるものの、それも完全にではない(毎回に展開が違っていたりするから)。もしかしたら単に軽度の予知能力があっただけで、それによって「自分はタイムループしている」というのが自分の思い込みでしかない可能性は否定できない。
 怖い。
 肌が粟立って、身体が震え出す。
「やめて、殺さないで。何でもします。奴隷になります。誰か、誰か私を買ってください!」
 命乞いの言葉が、恐怖の涙と一緒にすらすらと流れ出てくる。嫌っていたはずの魔族たちに「私を奴隷に買い取ってください」と哀願していた。
 でも、魔族の宴会客たちは笑うばかり。
 内股を熱い液体が流れる。足元が覚束ない。
 涙と鼻水にくしゃくしゃになった顔を左右に振って、拒否しようとする。でも無駄だ。刃物が肌に触れたとき、脱糞しながら絶叫していた。
 
 
2
「どうしたの? うなされてたよ?」
 揺り起こされると、カエデが心配そうに覗き込んでいる。ここは仮設住宅のテントの中だった。
 全身が汗みずくになっている。
 急に悪夢から、現実の安全な寝床に引き戻されて拍子抜けしてしまう。
「ごめん。ちょっと怖い夢を見ただけ」
 それがただの夢なのか、タイムループの過去の記憶なのか、ミケナ・フロラ自身にも、どちらとも言い切れない。もう何十回も同じ時間と似たようなプロセスをやり直しているような気もするけれど、それも自分の思い込みと既視感で妄想に陥っているだけかもしれない。
 けれど、今困ってしまうのは。
 いい年の大人の女がおねしょしてしまった。
 
 
3
 翌朝に、レト君に付き合って、またパトロールに出かける。
「油断しないで。今日は敵に会う気がする」
 記憶が正しければ、過去のタイムループで敵と出会った日の朝食やその他の様子と一致する。レトとカエデは半信半疑だったが、ミケナ・フロラは少し待って貰って、トラを引っ張ってきた。
「何だか、胸騒ぎがして。それに、レト君にお稽古やアドバイスにも、たまには一緒に」
 すると、やっぱりルパもついてくる。
 準備万端。
 これなら切り抜けられそうだ。
「あれ? トラさんたちも?」
 キョトンとしているカエデに、ミケナ・フロラは心の中で呟く。「こうしないと、あなたが攫われて、二日後に死体になって見つかるのよ」と。
 
 
4
 さらに翌日は、弓と投げ槍の訓練。
 近くの河原でチーム・レトリバリックの面々が「弓・投げ槍の練習中」の立て札。ルークス・アルケミスも参加して、今回はトラではなく、ミケナ・フロラが付き添い担当。
 ミケナは魔法で半透明の練習用の矢や投げ槍を形成して手渡す係。実戦用のものと違って、これならば間違って人に当たっても大丈夫。彼女からすれば、それも魔法スタミナの訓練にもなって一石二鳥。
「今後は、飛び道具も使えないとだし」
「そうね、頑張って」
 張り切るカエデだって、猪突猛進のように見えても色々と自覚はあるのだ。最近では救急救命や看護の研修なども定期的に受けている。
 彼女は優秀な戦士や戦闘員ではあるけれど(貴重な人材ではある)、それでもトップクラスと戦えるほど強いわけではないのだし、常に敵に捕獲されるリスクを背負っている(若い娘だから、魔族や盗賊などからすれば奴隷や食材としても価値が高いから)。ゆえにカエデに優先的に任されたり期待される役割としては、積極的に最前線や危険地帯に行くことよりも、味方エリアでの警備パトロールや守衛で安全を確保や補強する「婦警さん」のような役目・仕事や、集団での戦闘時に後方から飛び道具での弾幕を張るような配置になる。
 ミケナが最初にカエデのリスキーな「戦士希望」を止めなかったのは、基本技能として役に立つことの他に、もう一つの理由がある。それによって素敵な出会いがあるから。こうしてレトやルークスのような男の子と理想的な形で出会えた今(レトとの冒険チームの結成やドワーフ村落の脱出の護衛・案内でルークスとも知り合えた)、ミケナとしてはより現実的な路線への修正に賛成。
「今度、サキちゃんところでアドバイスや研修でも受けてみたら?」
「あ。あの人って、怪我の応急措置とか病人看護とかの研修もたまにやってたっけ?」
「そうよ、ウフフ」
 無邪気なカエデに、ミケナは含みのある笑顔。
 サキと関わることで「女らしく」なって知恵がついたり、より男を魅了しやすくなる。花嫁修業や世間知になる。いつぞや、ミケナ・フロラが見てきた別の未来では、しばらくサキのところにいてから後で、レトやルークスへの見る目や関わり方が変わっていた(耳年増になった?)。
 
 
5
 夕方になる前に、屯田兵村村の防護柵の内側に戻ったら、入り口付近で見知った顔。耳の長いハイエルフの青年が、あの無自覚なまでにだだ漏れの色気と天然かもしれないお茶目を振りまくサキと話していた。
「ミケナぽん、あなたのとこの長老先生がきたけど、なんかやばいっぽいよ」
「ラーザロ先生。お久しぶりです、どうなさったんですか?」
 ミケナ・フロラにとっては、ラーザロ・マルクトは恩師や先輩にあたる。ハイエルフ(純血に近い)は特に長寿ゆえにまだ若い姿だったが、実際は百歳に近いそうだ(普通のエルフの年配たちと変わらない世代だった)。
 通常、魔術協会という組織は人間の魔術者のみを対象に登録メンバーにしており、クラス3以上の評価は(魔術の能力以上に)主に政治的・支配システム上の権力関係。だが、純粋に能力でクラス3より上の評価を付与される者もいないわけではなく、ラーザロはジェス教会などともつながりが強く、個人的な実力にせよ政治力にせよ有力者と言ってよいだろう。
 ミケナや反魔族グループからすれば、最も信頼できる人物の一人なのだが、彼は浮かぬ顔をしている。
 
「どうやら、ここの捕まっていたサワラ君に死刑判決が出そうなんだ。悪いことには、クリュエルの友人で、裁判の代理人をやっていたヨナ神父まで身柄拘束されてしまって、クリュエル君にも欠席裁判で有罪判決になってしまった。
中央部での親魔族のギャング利権は政治家どころか裁判所まで抱き込んでいるものだから、まったく! 軍や反魔族グループが抵抗していても、とうとうこんな無茶苦茶なことに」
 サワラは辺境都市ボンデホンの元軍人で、反魔族レジスタンスの世話役だ。魔族側のギャングや手先の鮮魚人・ゴブリンなどを自警団パトロールで駆逐していたのだが、中央部の都市で「非人道的」「越権行為」という告発されてしまい、司法システムを悪用して逮捕・収監されていた。
 どれだけプロパガンダで欺瞞したところで、軍や官憲などはある程度まで裏事情を知っているのだし、さすがに指揮官の全部が買収されているわけでもない。世間にも、親魔族ギャングたちの悪辣さや卑劣と姑息は知られてきている。だからいくらなんでも、そんな無茶な判決はできないだろうと楽観されていた趣はあった。
 しかもリベリオ屯田兵村のリーダーである原人騎士閣下ことクリュエルにまで、その手の政治工作による陥れは激化している。単純な腕力や魔法の戦闘ではなく、政治謀略や経済上での干渉と妨害による攻防と駆け引きが続いている。
 
 
6
 ラーザロ・マルクトがクリュエルやサキ、ジョナスなどと会談した要件は主に二点。
 まず第一に、政治工作による陥れがあまりにも酷いことになっているため、そのことで対抗するために打ち合わせにきたこと。この辺境地方が危機に陥って魔族陣営に売り飛ばされるようなことは、人間陣営全体が不利に追い込まれていくことを意味している。やはり正統派のハイエルフである彼からすれば受け入れがたい。
 もう一点は「魔法石器」についての管理だった。
「今度の魔法石器の違法化問題では、私は禁止でなく制限には同意した。何故かは前々から言っていることだが、やり方としてグレーゾーンで、際限なしに推し進めれば悪用されかねないし、パワーバランスを崩しすぎる」
 魔法石器が魔術協会に忌避・攻撃される理由。
 それは魔術者にほぼ依存しない魔法力が普及してしまえば、魔術者全般の価値が相対的に低下してしまうから。だから「魔法効果の付呪」は特別な高級品にのみ限ったり、各種の制限が設けられてきた。もしも、強力な魔法効果がある武器が普通に大量生産されれば、一定数の魔法武器製造者がいれば軍は独立行動でき、魔法協会の政治的な発言力や影響力は低下するだろう。
 だから、クリュエルの「魔法石器」(使い捨ての強力な魔法武器)の製造は(独特のノウハウがあって出来ることとはいえ)グレーゾーンを突いた一種の脱法行為の面がある。従来には少数に制限されて厳重管理された高級品をディスカウントしているわけで、値崩れや政治上のパワーバランスを切り崩す振る舞いでもあるだろう。
「もちろん、全面禁止までしろとは言わない。だが前に裏切り行為への報復や自衛のためとはいえ、魔術協会の部隊に魔法石器の一斉射撃で攻撃したのはまずかった。「大量生産された魔法武器が人間同士の争いに使われ出したら危険だ」という懸念が目の前で実例になってしまって、親魔族派や協会至上主義者たちからダブルスタンダードの論法で良いように攻撃されている」
 情勢は複雑と困難を極めていた。
 ラーザロは「保養と視察」という名目で、しばしリベリオ屯田兵村や辺境都市ボンデホンに留まることを予定しているという。クリュエルなどが自由に出て離れて動き回れない理由は、辺境地方の拠点防衛に釘付けされているからだ。しばらくでも代わりに守りに着いてくれる強力な魔法使いがいれば、その間は余所への出張や遠征もやりやすくなるだろう。
 さしあたっての急務は、中央部の都市で危機に晒されているサワラやヨナ神父の救出と、政治謀略工作やプロパガンダへの対抗策、そして反魔族グループ勢力同士での連携の構築だった。

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